2010年6月23日水曜日

Mathematics is an old man's game ~数学を勘違いしている人達へ~

以前、そこそこ教養のあるとある日本人(数学はやっていない)に、「私は数学を専攻している」と言ったところ、以下のような返事が返ってきたことがあった。


「数学者って、若いうちの頭の柔らかいころが勝負で、そのころでないと良い研究が出来ないって聞いたんですけど」


この人に限らず、私は似たような事を言われたことが少なからずあるし、私が数学を本格的に専攻し始める前にも、そんなような事が書いてる本や記事の類を読んだことがあるのを記憶している。

そのおかげで、私も数学の世界に本格的に足を踏み入れる前までは、なんとなくそうなのかなぁ~とも思ってた事もあった。

多少くだらない(?)話になるが、約十年ほど前のやまとなでしこというドラマをご存じだろうか?高視聴率を記録したドラマであるために、覚えている人も多いかもしれないが、このドラマの中で、堤 真一の演じる主人公の男性は、元数学者で、若いころ数学者を志しMITに留学するも、挫折し、日本へ逃げ帰って来た、という設定になっていた。

そして、このドラマの中で、何度か繰り返し取りざたされてたのがこの「数学者は若いうちが勝負」という主張だった。

で、この主人公の男性は結局若い時に挫折し、若い時に駄目だったから、もう駄目だ的な感じで日本に帰ってきた、って事になっていた。

ちなみに、私はこのドラマをサンフランシスコで見た。そう、なんとサンフランシスコではケーブルが無くても日本のドラマを見れてしまうのだ!!あぁ、サンフランシスコが懐かしい。

って、話がそれたが、とにかくこの


「数学は若いうち」


というのは、みなさんもなんとなく聞いたことがあるかもしれない。が、私自信は、数学の世界に長く身を置けば置くほど


「一体、何故ゆえにこのような、数学に対する間違った認識が生まれてくるのだろうか?」


と考えるようになっていったのである。


有名なところではハーディーという数学者が有名な著書の中で、ズバリ

"Mathematics is a young man's game."

と主張したりもしている。


しかし、実際に最先端の純粋数学の研究に身を置くものであるならば、誰でも分かることではあるのだが、数学という学問は他の学問にもまして「多くの積み重ね」が要求されるゲームなのである。ましてや、まともに研究などと呼べるような事が出来るようになるのには、気の遠くなるような時間を「基礎体力作り」に費やす事が要求される。

実際、私の場合も、ある程度「研究」と呼べるようなものが出来るようになってきたのも、論文を2、3本仕上げた後の、ついここ2年ぐらいのようにも感じる。そして、現在であっても、研究をすればするほどに、多くの事を学ぶ必要性を感じ、常にそのための「基礎体力作り」を研究と同時進行させながら行っている。


そんな途方もなく時間のかかる「積み重ね」をしてきた者のみが、すぐれた研究成果を上げられるのだ。何年、十数年、いや何十年という、長~い、長~い年月をかけて「数学者」は作られていくのである。


私が感じるところでは、数学者の世界は、

30代...若手
40代...中堅
50代...ベテラン
60代...その道の匠
70歳以上...数学神

ぐらいの感じで、数学は"young man's game"などとは、正反対の"old man's game"なのである。

といっても、このハーディーが言った"young man's game"のyoungっていったいどのくらいの年を指すのか私にはいまいち分からなし、そもそもハーディーがこの本を書いた時には彼自身は60歳を過ぎていて、60過ぎの人から見れは40代だって十分"young"な気もするのだが。ましてや初めに上げた「頭の柔らかいころ」ってのが何の事なのか、私にはさっぱり意味不明でもある。

そして、ハーディーみたいな「昔の偉い人w」がこういういい加減な事を言って、それが独り歩きし、結局それを素人や、場合によっては専門家を自称するような人までもが、勘違いをして、その結果上で挙げたようなくだらないドラマが出来てきたりもするんだろうなぁ~、と思ったりもする。


ちなみに、このハーディーの言を受けて、私の友人のJordan Ellenberg

Is Math a Young Man's Game? No. Not every mathematician is washed up at 30.

という記事を書いているが、全くその通りなのである。

もちろん数学の歴史を紐解けば、ガロアとかアーベルとか、とんでもなく若い時に、とんでもない功績をあげ、しかもその功績が世間に認められる前に世を去って行った伝説に残るような人達も中にはいるが、結局、こういう人達の方が例外で、だからこそ「伝説」になったりもするのである。


通常の場合、とりわけ現代数学においては、多くの積み重ねをしてきた人のみが、数学者として優れた研究成果を残す事が出来るのである。


そう、

"Mathematics is an old man's game!!"

なのである。


そして、さらに思うことは、結局そんな「積み重ね」が研究者として大きな要素になる数学というゲームにおいては、少しぐらいの才能の差など大した意味を持たないのである。

数学は「才能」ではなく「積み重ね」なのだ。


このようなことは、数学を知らない人にとっては、結構意外な事かもしれないけど、私のように純粋学の研究に身を置く者の多くは、言葉にはしないまでも、心のどこかでそう感じているのではないかと常々思っている。



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4 件のコメント:

あずぴか さんのコメント...

ふーん、数学が若いうちだけのものなら今研究してる人達は何なんだって話だねえ。昔の人達は早く死んでしまう人が多かったし状況も違っただろうから比較しづらいし…。
でも積み重ねが大事って言うのはほぼ何事にも言える!努力し続けるって大変だけど、努力し続けないとなし得ないものがあるもんね。数学の事は相変わらずわからんけど、秀ちゃんが努力してるのを励みにして私も自分の専門に力を入れるよ。(^-^)」
あと『やまとなでしこ』…見てたんだ。今度あらすじでも見てみるよ(笑)。

Yusuke さんのコメント...

偶然このブログを見つけることができました。
本当に私にとって為になることや、励みになるブログです。
というのは、私は今年の五月にアメリカの大学を卒業して、航空宇宙工学科の学士を得たのですが、今年の八月から始まる大学院にはApplied mathの分野に進むことになりました。工学から数学への急転換なんですが、将来数学の分野で活躍したいと心から思ってます。そういう自分に、Takeda博士のブログはすごくためになりますし、まさに私がたどって行きたい軌跡をみせてくれてます。
ちなみに、私はThe U of Arizona のApplied mathに進みます。
これからもブログを拝見させていただきます。

謎の数学者 さんのコメント...

Yusukeさん。コメントありがとうございます。

私も学部時代は工学(機械)を専攻していましたが、そこから、哲学にまず専攻を変え、そしてさらにそこから、数学に転向しました。

私の場合、学部は日本の大学に行ったので、そこからの転向はかなり大変でしたけど、学部もアメリカに行かれたのでしたら、その辺は遥かにスムーズになると思いますが、それでも大変な事は色々あるでしょうが、大学院、頑張ってくださ。

Yoshi さんのコメント...

こんにちは。An old manである私としては、読んで大変嬉しい文章でした。私など、50歳くらいになった頃にやっと少し自信を持って学会発表できるようになったかなあ、という程度です。でもそうしているうちに、記憶力の減退とか、早期のボケかも、なんて恐ろしく思ったりしています。人生、限られた時間の中での虚しいあがきでした(苦笑)。でももうちょっとの間頑張ります。 Yoshi