2010年12月12日日曜日

日米大学比較~大学院レベルの授業の履修

日米大学比較シリーズ、今回は前回書いた授業履修システムに関する記事の補足。

前回書いたように、日本において各学生がどの授業を履修できるかはその学生の学部学科と学年に決定されるのに対し、アメリカでは各授業のprerequisiteさえ満たせば基本的に専攻分野や学年などに関係なく授業の履修が可能になる。

つまりその理屈で言うと、アメリカでは学部生が大学院レベルの授業を履修することだって可能になるのだ。日本の大学ではこれは当然のように不可能である。

専攻分野選びに関して、「まずやりたい事を決める」のではなく「色々な事をやりながら、徐々に自分の専門を絞っていく」というのがアメリカ流であると書いた。

が、それでも大学入学した当初から、例えば

「俺は数学にしか興味がない!!数学一筋で行く!!」

って思っている人だっているであろう。が、実はこういうタイプの人にもアメリカのシステムは実に優れているのだ。

つまり、prerequisiteさえ満たせば基本的にどんなレベルの授業でも履修出来てしまうため、例えば「自分には数学が一番」と分かっている学生なら、数学の授業をガンガン履修していき、学部の時から大学院の授業を履修することも十分に可能なのだ。

実際、私の現在いるPurdueの数学科などで優秀な学部生は大体、学部の最後の年は大学院の授業を履修したりしている。

例えば、ちょうど一年前に私が担当した線形代数の二学期目の授業で一番優秀だった学生は、前学期から大学院レベルの授業を履修しており、現在は大学院に出願中である。

基本的に彼のようにPurdueぐらいのレベルの大学で優秀だった学生は学部の時に大学院レベルの授業をかなりのところまで履修して、大学院はハーバード大学やプリントン大学や、そこまでは無理でもそれに準ずるようなトップレベルの大学に進んだりすることになるのである。


と言っても、こういう人が必ずしも数学者として成功するとも限らないし(参照記事1)、またあまりにも「数学一筋」だと、あるとき突然「数学以外の事も...」という思いに取りつかれるかもしれない(参照記事2)ので、これが必ずしも良いとも思わないのではあるが、それはまた別の話である。


話を戻すが、このような理由のため、アメリカの大学で数学が好きな人はどんどん学部時代にかなりハイレベルな数学を学んだりもする。

日本人は「アメリカの大学での数学のレベルは低い」と勝手に思ってるふしがあるように思えるのだが、トップレベルの私立大学の大学院にはこのように、学部の時点で大学院レベルの授業を履修した学生が集まったりするので、そういう点では「アメリカの数学のレベルは低い」というのは憶測を交えた単なるまやかしに過ぎないのだが、このことままた別の機会に詳しく書くことにする。


そして、もちろんこのことは数学以外の分野にも当てはまる。


つまり、アメリカの制度は先に進みたい人はどんどん先に進む事も出来るという点においても、日本よりも優れていると断言できる。



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6 件のコメント:

Willy さんのコメント...

例えば東大でも、大学院の数学科の授業に学部1年生とかが来てましたよ。登録は確か大学3年くらいにならないとできないですけど。授業の意味が日米では根本的に異なるので、比較は難しいですね。

個人的にはアメリカの数学のカリキュラムが遅れている(ように見える)のは飛び級があるせいだと思っています。16歳で学部に入って、2~3年生で大学院の授業を取れば日本で成績上位の学生と変わらないですよね。そういう意味でアメリカのシステムは全体としては上手くいっているのかな、と思います。

匿名 さんのコメント...

いつも大変興味深く拝見させてもらっています。

ブログ主さんにいつかぜひ記事にしていただきたい内容があります。

それは、いかに数学を勉強するかということです。
勉強といっても受験勉強ではないです。

研究のなかでの勉強と、研究者になるまでの勉強が違うのかは私には分かりませんが、そこら辺も含めて現役の数学者さんに一度伺いたかったのです。そしておそらく、数学をちゃんと学びたい人はだれもが考えている事だと思います。

分野によっても違うのかもしれませんが、勉強に対する基本的な姿勢や、より早く、確実な理解にするにはどうすればよいか、等、ブログ主さんのいうように超長距離種目の数学だからこそ、方法論も長い目で見ればかなり違ってくるのではないかと思っています。
日々の中で感じる事がありましたら、ぜひいつか記事にしてほしくお願い申し上げます。

長文失礼しました。

謎の数学者 さんのコメント...

Willyさん。

東大ですかぁ~。初めからそんな超特別な大学のことは念頭において書いていなかったのですが、日本でも学部生での大学院の授業の履修は可能なのですね。

数学のレベルに関して私が思うのは、日本やその他のアジアやまたヨーロッパの多くの国でもそうですが、学部から数学を専攻した人は学部の初めから数学科用の数学の授業を受けてきたのが一般的です。

そういう人達がアメリカに来て、自分たちが学部時代に受けた数学の授業とアメリカの学部で開かれる授業を比較して「アメリカの数学のレベルは低い」と簡単に言ってしまう事が多々あります。

しかし、私は工学部であったため、教養レベルの微積や線形代数などは工学部生用の授業を履修しました。それらの授業と比べて、私が現在教えているような微積や線形代数の授業などはレベル的にはほとんど変わるようには思えず、場合によってはアメリカの方がレベルが高いと感じる事だってあります。

大学受験がある分、学部の初めの時点では日本の方が多少進んでいるかもしれませんが、授業の進む速さなどを考慮すれば、別にアメリカが遅れているとはそれほど思わないと私は思っています。

謎の数学者 さんのコメント...

匿名さん。

数学の勉強の仕方ですか~。

前にもこの事を書こうと考えた事もあるのですが、私自身が数学者として、そんなことを語れるようなレベルには無いような気もしており、とりあえず考えさせてもらいます。

とりあえずのアドバイスとしては、

「志学数学」伊原康隆(著)

辺りに目を通されてみてはいかがでしょうか?

匿名 さんのコメント...

私立大学の学生ですが、うちの大学でも大学院の講義を受講できますし、飛び級制度が整っていますよ(3年次からの大学院への飛び入学や、大学院の早期卒業などの制度もあります。)

謎の数学者 さんのコメント...

匿名さん。
どこの大学かは知りませんが、最近では徐々にそうい場所も増えてきているみたいですね。ただ、ちょっと勘違いしていはいけないのは「飛び級」というのとはまた異なるものであると言う事です。この辺はそのうち書きたいと思っているのですが、アメリカの場合はそもそも飛び級というものの前提になる「学年」というもの自体が基本的に存在しないという点が日米との重要な差異なのです。